借地権トラブル(借地非訟)
はじめに
建物の所有を目的とする賃借権や地上権(これらを借地権といいます。)の場合、借地借家法で存続期間が最短30年間と定められており、存続期間が長期間にわたることから、借地契約の締結後の事情変化により借地条件の変更が必要となる場合や、また、借地上の建物の譲渡に伴い、借地権の譲渡・転貸について借地権設定者(賃貸人)の承諾が必要になる場合があります。
こうした時に、当事者間の協議によって借地契約の変更合意ができない場合や、借地権設定者から借地権の譲渡・転貸に関する承諾が得られない場合に、借地人は、裁判所に対して、借地条件の変更や、借地権設定者の承諾に代わる許可を求める申立を行うことが出来る場合があります。
このような借地条件等に関する事件を「借地非訟」といい、借地借家法等において、通常の民事訴訟とは異なる手続きが定められています。
借地非訟事件の類型
借地借家法では、借地非訟事件として、以下の6つの類型を予定しており、それぞれについて、申立の要件を定めています。
借地条件の変更
借地契約で建物の種類等の制限がある場合に、裁判所に対して、借地条件を変更することを求める申立です。 法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情によって、現時点で借地権を設定する場合には、従前の借地条件とは異なる建物の所有を目的とすることが相当である場合には、裁判所が、借地条件を変更することができます。
増改築の許可申立
借地契約において建物の増改築の制限がある場合に、借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可を求めるための申立です。 借地権者が予定している増改築の内容が土地の利用上相当である場合には、裁判所が、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます。
借地契約更新後の建物再築許可の申立
借地契約の更新後に建物を再築しようとする場合に、借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可を求める申立です。 借地借家法上、借地契約の更新後に、借地上の建物が滅失した場合には、借地権設定者は、借地人に対して、地上権の放棄又は土地賃借権の解約の申し入れることができ、借地権者が、借地上に借地権の残存期間を超えて存続する建物を再築しようとする場合には、借地権設定者の承諾が必要ですが、借地権者が建物を再築するについてやむを得ない事情がある場合には、裁判所が、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます。
土地の賃借権譲渡・転貸の許可申立
借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、当該三者に対して借地権を譲渡・転貸することについて、借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可を求める申立です。 第三者の資力や人的属性上、当該第三者に借地権を譲渡・転貸しても借地権設定者が不利になるおそれがない場合には、裁判所が、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます。
競売・公売における賃借権譲渡の許可申立
第三者が競売や公売によって借地上の建物を取得した場合において、借地権の譲渡等について、借地権設定者の承諾に代わる許可を求める申立です。 上記4と同様、第三者が借地権を取得することについて借地権設定者が不利になるおそれがない場合には、裁判所が、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます。
借地権設定者の建物、賃借権譲受申立
上記の4の申立(賃借権譲渡・転貸の許可申立)、若しくは5の申立(競売・公売における賃借権譲渡の許可申立)がなされた場合に、借地権設定者が、裁判所が定める期間内に、自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡・転貸を受けるための申立です。 借地権設定者からこの申し立てがなされた場合、裁判所は、建物の対価、及び、賃借権の対価又は転貸の条件を定めて、借地権者に建物の譲渡、及び賃借権の譲渡・転貸を命じる裁判をすることができます。
借地非訟事件の手続の特徴
借地非訟事件は、権利義務の存否の判断を目的とする通常の民事訴訟とは異なり、借地権者と借地権設定者との間の利害調整を目的としていることから、通常の民事訴訟とは異なる手続が定められています。
まず、借地非訟事件では、当事者双方による証拠の収集・提出のみならず、裁判所が職権で証拠資料を収集したり、当事者が主張していない事実を裁判の基礎にしたりすることができます。また、手続きは、原則として非公開で行われることとされています。 また、裁判所は、裁判に際して、不動産鑑定士などの専門家で構成される鑑定委員会の意見を聴く必要があり、鑑定委員会は、借地条件の変更に伴う借地人からの財産上の給付の金額や、借地権の譲渡対価などについて、意見を述べることとされています。 そして、裁判所は、借地人等の申し立てを認容する場合、付随処分として、職権で、他の借地条件(地代や存続期間)を変更したり、また、財産上の給付を命じたりすることができます。