境界・私道トラブル
はじめに
境界や私道に関するトラブルは、日常生活に密接したトラブルであり、また、当事者間の感情的な対立が根深くなることが多々あることから、当事者間の自主的な解決が難しいトラブルの類型であると考えられます。
そのため、境界や私道のトラブルが生じている場合には、民事訴訟や行政上の制度を活用し、専門家等の関与の下、解決を目指すことが望ましいかと思われます。
境界トラブル
境界トラブルの解決方法
自己が所有する土地と隣地との間の境界を確定するための方法としては、まず、境界確定訴訟を提起して、裁判上、境界を確定するという方法が考えられます。 また、現在では、不動産登記法で定められている行政制度である、筆界特定制度を利用し、専門家の関与の下、筆界を特定することも可能です。
境界確定訴訟の手続の特徴
境界確定訴訟は民事訴訟の一種であり、隣地所有者を被告として、裁判所に対して境界を確定することを求めて提訴することになります。
境界確定訴訟は、「形式的形成訴訟」といわれる特殊な訴訟類型であり、通常の訴訟と異なり、(1)裁判所が当事者の主張の内容や範囲に拘束されない、(2)境界線については当事者の自白は成立せず、また、被告による請求の認諾も認められない、(3)裁判所が原告の請求を棄却することは許されず、一定の境界線を判決により示さなければならない、などという特徴があります。 審理においては、当事者双方が、自己が主張する境界線が正しい境界線であることを基礎づけるために、過去の公図や測量図等の図面を証拠として提出し、また、現地の検証を行うなどすることになります。
こうした証拠等に基づいて、裁判所は、原告・被告土地の境界として、一定の境界線を確定する内容の判決を下します。裁判所の判決が確定した場合、判決で示された境界線が境界として確定され、登記簿や図面に反映することが出来ることになります。
筆界特定制度
筆界特定制度は、公法上の境界である「筆界」を特定するための行政制度です。
筆界特定制度は、土地の所有者等が、法務局に対して、筆界の特定を求める申請を行うことにより手続が開始されます。 手続開始後、外部専門家である筆界調査委員(弁護士や土地家屋調査士などが選任されます)が、法務局職員と共に、現地調査や測量等の調査を行い、筆界に関する意見を提出し、この意見に基づいて、筆界特定登記官が筆界を特定することになります。
筆界特定制度を利用する場合、専門家の関与の下に筆界を特定することが実現でき、また、訴訟を提起する場合に比して迅速にトラブルを解決することが出来るというメリットがあります。
私道トラブル
私道の通行については、通常、当事者間で明示の合意がなされずに、土地所有者の好意等により、事実上、私道の使用が許可されているということが多く、そのため、権利関係が曖昧となっている場合が多々あります。 法律上認められる私道の通行権としては、以下の権利があります。
囲繞地通行権
当事者の合意の有無にかかわりなく、民法上認められる通行権です。 通行権が認められる場合は2種類に区別されており、まず1つ目は、自己の所有地が他の土地に囲まれており公道に通じていない場合(袋地)には、自己の所有地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行することが認められます(有償)。 また、2つ目は、1筆の土地を2筆以上に分割し、分割によって公道に通じない土地(袋地)が生じたときは、袋地所有者は、他の分割者の土地(囲繞地)を通行することが認められます(無償)。
通行地役権
当事者間の合意により設定される通行権です。 私道の所有者と使用者との間で通行地役権を設定する旨の合意をすることによって通行地役権が成立しますが、通常、通行地役権の場合、明示の合意がなされることは少なく、裁判等で争われる場合、黙示の通行地役権の設定合意の有無が問題となります。 こうした場合には、土地取得の経緯や通路の形状、従前の通行の事実等の諸般の事情によって、当事者間の合意の存否が判断されることになります。