不動産仲介トラブル

はじめに

不動産の売買や賃貸借などの取引を行う場合、多くの場合、仲介業者の仲介によって契約が成立します。 不動産仲介取引におけるトラブルとしては、買主や賃借人が、仲介業者に対して、仲介業者としての説明義務や注意義務違反などを理由に損害賠償を請求する場合や、仲介手数料の支払いを拒否する場合などが生じています。

こうした事案に関しては、仲介業者の皆様としては、損害賠償や仲介手数料などの経済的な利益は勿論のこと、営業上の信用に関わる問題でもありますので、弁護士に相談の上で方針を策定することが望ましいかと思われます。 また、紛争の発生を未然に防止するという観点からは、日々の業務において、常にトラブルのリスクを意識するとともに、リスクに関する疑問等が生じた際には、取引実行前に弁護士に法的リスクの存否や代替案について相談することが重要となります。

不動産仲介業者の注意義務について

不動産仲介業者の注意義務の範囲

宅地建物取引業者は、不動産取引の専門家として、宅地建物取引に関する専門的な知識と経験、調査能力を有していることから、宅地建物取引において、非常に高度の注意義務が課されています。

裁判実務では、不動産仲介業者が、仲介契約における直接の委託者に対して調査・説明義務を負うのは勿論のこと、直接の委託関係にはない、売買契約や賃貸借契約の相手方に対しても、調査・説明義務を負うことが肯定されており、仲介業者が契約締結時に調査・説明義務を怠っていた場合には、損賠賠償請求が認められています。

具体的には、例えば、不動産売買契約の仲介において、目的物件に瑕疵があることが判明した場合においては、買主が、買主側仲介業者に対して仲介契約上の債務不履行責任を追及するとともに、売主側仲介業者に対しても、不法行為責任を追及して、損害賠償を請求する事案などが多く存在します。

このように、宅建業者が不動産仲介を行う場合、非常に高度、かつ範囲の広い注意義務を負うことになりますので、取引の際には、物件に関する調査を慎重に行うことが必要とされています。

売買契約の仲介における注意義務

売買契約の仲介に関して、仲介業者の注意義務が争われた事案は数多く存在しますが、大きく分類すると、(1)物件の権利関係についての調査・説明義務違反が問題となった事案、(2)物件の瑕疵に関する調査・説明義務違反が問題となった事案が中心となっています。

(1)に関しては、売主の物件に対する所有権等売却権限の有無や、自称代理人の代理権限の存否、物件に設定されている担保権の有無などに関する調査・説明義務違反が問題となっています。

(2)に関しては、物件に関して、都市計画法や建築基準法などの法令上の制限があることが判明した事案や、建物に手抜き工事や雨漏り等の物理的瑕疵があることが判明した事案などにおいて、仲介業者の責任が問題となっています。 また、特に近時は、建物の売買後に隣地に建築物が建築されたことにより日照が阻害されたという事案や、土地建物の売買において、従前から隣人とのトラブルが継続していたという事案、また、過去に物件において自殺や殺人事件等が生じていたという事案のように、心理的環境的瑕疵が問題となる事案も増加しています。

賃貸借契約の仲介における注意義務について

賃貸借契約の仲介に関して仲介業者の注意義務が問題となった事案としては、売買契約の仲介と同様に、賃貸人の賃貸権限の有無などの権利関係に関する調査・説明義務違反が問題となった事案や、賃貸物件の瑕疵に関する調査・説明義務違反が問題となった事案などが多く存在しています。 また、賃貸借契約の仲介における固有の問題としては、仲介業者が、賃借人の属性(賃借人が過激派に所属していた事案等)に関する調査・説明義務に違反したとして、賃貸人に対する損害賠償請求が認められた事案などがあります。

不動産仲介手数料の支払請求

不動産仲介業者の仲介により売買契約や賃貸借契約等が成立した場合、仲介業者は、委託者に対して、仲介契約に基づいて、不動産仲介手数料を請求することができます。

仮に、売買契約等の成立後に委託者が仲介手数料の支払を拒んだ場合、仲介業者は、(1)不動産仲介契約が成立したこと、(2)仲介行為が行われたこと、(3)売買等の契約が成立したこと、(4)仲介行為と契約成立との因果関係があることを主張・立証することで、委託者に対して、裁判上、仲介手数料の支払を請求することができます。

また、仲介によって売買契約等が成立した直後に、売主若しくは買主の事情で売買契約等が解除・解約された場合に、委託者が仲介手数料の支払を拒否するという事案も生じていますが、こうした場合においても、仲介業者は、原則として、委託者に対して仲介手数料を請求することができます。 裁判例でも、上記のような事案は多数存在しており、裁判例の傾向としては、原則的に、仲介業者の仲介手数料支払請求を肯定しつつ、その例外として、売買契約等が解除された原因等を考慮して、解除の原因が仲介業者にも存する場合等には、支払請求の全部又は一部を否定しています。

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